黒部市で持続可能な「天然資源水の豊かさ」について考えてみよう。
2024年11月実施 SDGsツアー(富山市内の高校生が参加)
富山市内の高校生を対象に、黒部市の天然資源水の活用と保全、パートナーシップをテーマにSDGsツアーを実施しました。【参加者25名(高校生)大人2名】
本ツアーでは初めにSDGsツアー用のテキストを配布します。
テキストで世の中にどのような課題があるか確認し、それを地域の課題に落とし込んで考えます。さらに地域の課題解決への取り組みを見て、自分ができることを考えるきっかけとします。
課題
地方都市は、環境課題・社会課題・経済課題等の多くの課題解決が必要とされています。しかし自然を保護するために開発をやめた場合経済が縮小し、貧困拡大という問題が起こります。その逆もしかりで、積極的な開発がもともとある地域資源を破壊することがあります。
複雑な現代社会では両方のバランスを取る、新たな課題解決(イノベーション)が求められています。このような複雑な課題は単独の力では解決が難しいため、包摂的な活動、SDGsでいえば目標17〝パートナーシップ〟が重要になります。
課題
近年地方都市では自然資源や伝統文化など、地域の大切なものが失われつつあります。その一因として大切なものが知られていない、または当たり前になり、地域内で関心が失われ守る努力が行われなくなることにあります。地域の誇れる資源や文化が失われた場合、地域の活力や魅力が損なわれ、人口減少(若者の流出)につながり、最終的には地域が持続できなくなることが起こり得ます。
ツアー開始前に
富山県黒部市の豊かな天然資源について説明します。
富山県内で黒部市は水が豊かな都市として有名です。その理由は3,000m級の立山連峰にあります。
立山連峰の山頂付近はよく雨が振り、11月から4月までの約6ケ月間に渡り雪が降ります。そして〝雪の大谷〟という約20mの雪の壁がつくられます。
春になると立山の雪解け水は、豊かな森林から栄養素(窒素やミネラル)を吸収し、黒部ダムを経由して急流の黒部川を流れ、あっという間に富山湾にとたどり着くのです。
本ツアーは黒部川を流れる水の物語を、中流の宇奈月からスタートして、平地、そして下流へと流れに沿って進めていきます。
地域資源の源 黒部川を知る
ツアーの最初に訪れたのは、宇奈月駅前の黒部川電気記念館です。
ここで宇奈月を案内していただく立山黒部ジオガイドと合流します。
立山黒部ジオパーク協会
※写真はイメージです。
黒部川電気記念館は、主に黒部川の水力発電に付いて展示されています。
黒部川水系には黒部ダムを入れて5つのダムと12の水力発電所があります。再生可能エネルギーであるクリーンな水力発電は、かつて高度成長期の関西や北陸の産業発展の役割を担っていました。電気記念館の黒部峡谷ジオラマシアターは、約10分程度で黒部峡谷の歴史・そして自然についてジオラマと映像を組み合わせてダイナミックにご紹介しています。
これから黒部峡谷鉄道のトロッコ電車の旧軌道(現在は廃線)に沿ってやまびこ遊歩道を歩きます。11月後半は山の紅葉が真っ盛りです。やまびこ遊歩道では黒部川の雄大な流れ、トロッコ電車が走る新山彦橋、かつてトロッコ電車が走行していた旧起動トンネルなど、ダイナミックな景観をお楽しみただけます。時間の都合でトロッコ電車に乗ることができない場合でも、約1時間で宇奈月の自然の魅力をお楽しみただけます。
※写真はイメージです。
やまびこ遊歩道 旧軌道跡
紅葉期はやはり宇奈月のトロッコ電車目的の観光客が多い。自然が美しい秘境と言われる欅平まで(現在は土砂災害の影響でいけません)、電車で行けるのは便利で魅力的です。
※写真はイメージです。
※写真はイメージです。
遊歩道に先にあるのは黒部川水系のダムの一つ宇奈月ダムです。水力発電ダムの仕組みは、高いところから水を落とし水車を回して発電しています。
重要点
黒部川水系で発電された電力は、黒部峡谷鉄道のトロッコ電車の電力として使用されています。実のところ宇奈月のトロッコ電車はクリーンな電力で動く、とても環境に優しい乗り物なのです。
昔はダム建設の資材運搬を目的に運行していましたが、その役目を終えた後は地域の人々の要望で、黒部峡谷欅平までの観光交通の役割を担うようになりました。それ以降地域に経済的豊かさをもたらしてくれています。
このように地域の資源を活かし、産業を活性化させて経済的豊かさを得ることは、持続可能な地域づくりの一助となります。
地域の人々は、地域の自然資源を活かすことが、地域の豊かに繋がることを知る必要があります。
新柳河原発電所(湖上に浮かぶ城をイメージ)
なお宇奈月温泉街では、黒部川の水を活用した小水力発電の電力で、電気自動車を運行しています。
地域資源を活かす→産業での活用を考える
宇奈月町で自然資源の源の黒部川と、その観光活用例を見学した後は黒部川沿いに下り平野部に移動します。
市民が生活を営む黒部市平野部には多くのものづくり企業があります。水はものづくりには欠かせない資源で、質の良い製品を生み出します。そしてそのような企業は地域の雇用の受け皿となるため、地域資源(水)が地域の人々に恩恵をもたらしてくれるのです。
黒部YKKセンターパーク
今回訪れた産業観光先はYKKの黒部工場です。
YKKの歴史を見ると、1954年に黒部市に大規模工場を建造しています。
この時代は高度成長期の始まりで全国的に電力が不足していました。そんな中で黒部市には黒部川水系の水力発電があり、その豊富な電力のおかげで生産コストを安くすることができたといいます。当時多くの市民がYKKで働き、地域に雇用と豊かさを生み出していたのです。(現在黒部工場には約6,000人が働いています)
自然資源は使わなければただ存在するだけのもので、資源を活用し産業を発展させてこそ活きるのです。
本ツアーではYKKセンターパークでYKKの歴史と技術を学びます。
YKK黒部製造所は黒部川の水を有効活用してものづくりを開始しました。水力発電の電力使用に始まり、ファスーの染色、部品の漂白・洗浄など、様々な用途で水は活用されたのです。
また近年では工場から発生する熱を地下水の冷気で冷やす、ecoな冷却方法として活用しています。
YKKセンターパークはふるさとの森をつくる地域貢献事業を行っています。
ふるさとの森とはYKK創業者吉田忠雄氏が理想とする、森の中の工場を2034年までの実現を目指し、20種類2万本の苗木を計画的に植樹して一般公開しているものです。
黒部川付近の自然が少しずつ失われつつある中、ふるさとの森と水辺にはトンボ等の希少種が多く存在しています。現在300種の生物が共存し、環境教育や調査の場として活用されています。これは黒部市平野部の林(緑地の)創出と、生物多様性を保全することを目的にしているのです。
重要点
実際にYKK創業者の吉田忠雄氏は『人類の繁栄は善の循環の中にある』と言っておられます。
企業の繁栄は社会の繁栄に繋がり、企業は単なる利潤の追求体にとどまらず、高い社会性を獲得する。この循環が自由社会とその中に働く人々の幸福をつくりあげるというのです。
この考えは〝SDGsの17番目の項目パートナーシップで解決しよう〟に繋がっています。
※善の循環については、YKKセンターパークに詳しい展示があります。ぜひ弊社テキストを合わせてご参照下さい。
地域資源の保全について考える
最後に訪れたのは、黒部川の下流にある漁師町の生地です。
黒部川河口付近の生地では、地下水が湧き出て、多くの湧き水スポットが誕生し名水のまちと呼ばれるようになりました。
ここでは黒部宇奈月観光局の名水ガイドの案内でスポットを巡ります。生地の名水巡りを通して地域の人々に水が活用され、また大切にされていることを実感できます。
黒部・宇奈月温泉観光局
最初に訪れたのは四十物昆布店です。こちらの羅臼昆布と生地の水は、出しをとるのに相性が良いようで、昔から生地では水と昆布に野菜を入れた鍋が食習慣として根付いてきました。
以来とろろ昆布やおつまみ昆布のような、富山を代表する特産品が生まれてきました。
名水ガイドツアーでは、四十物昆布で昆布茶と、とろろこんぶのミニおにぎりが試食できます。
清水庵の清水は地下で何年もかけて、花崗岩等からミネラルを吸収してまろやかな味になっています。
清水庵の清水
岩瀬家の清水は海が近いこともあり若干塩の味がします。
この水は皇国晴酒造の敷地内に湧いていますが、酒造りには向かないようで、酒造りには外の清水を使用しているそうです。
弘法の清水は地元の住民に愛用されている水場です。当番制で清掃活が行われているそうです。
今回のツアーで生地の水だんごの試食体験を行いました。できたての柔らかいだんごに名水をかけ、きなこをまぶしていただきます。
水によって微妙に味が変化するといいます。水だんごも富山の特産品となっています。
湧き水スポットでは地域の人が飲水として汲み、また洗い物や果物を冷やす等活用しています。生地の街歩きを通して、水は住民の生活になくてはならいものとして、大切にされていると感じます。また、ものづくりや特産品開発で地域の発展に役立っている事が分かります。
生地の河口付近には多くの小魚が見られます。これも豊かな水の影響があるのかもしれません。
地域資源の大切さを規範として伝える
地域を持続可能にするために、地域資源を保全しつつ、技術(産業)によって活用し、その効果を再大限に引き上げる必要があります。これが環境省が推奨する持続可能な地域社会の姿
〝地域循環共生圏〟で、パートナーシップの形の一つです。
そのために地域の大切なもの(資源や文化や産業)を地域のみんなが理解し、それを規範(法ではないが、誰もが正しいと認識しているもの)として次世代に伝えていく必要があります。
地域内で保全・技術・規範のバランスが取れているなら、簡単には地域の衰退は起こらないでしょう。
また、規範は地域で新たな取り組み(イノベーション)を行う際に、それが正しいか間違っているかを判断する基準になります。地域が共通の目的と価値観、そして判断基準を持つことで、地域で新たな取り組み(イノベーション)は推進されます。パートナーシップによるイノベーションは、持続可能な地域づくりに必要とされているのです。