黒部市で持続可能な「天然資源水の豊かさ」について考えてみよう。
2024年9月実施 SDGsツアー
富山市内の中学生を対象に、黒部市の天然資源水の活用と保全、パートナーシップの重要性をテーマにSDGsツアーを実施しました。【参加者18名(中学生)大人5名】
本ツアーではSDGsツアー用のテキストを配布します。テキストにより世の中にどのような課題があるかを知り、それを地域の課題として落とし込んで考えるきっかけをとします。さらに地域で行われている課題解決を見て、個人でもできることを考えてみます。
課題
地方都市は、環境課題・社会課題・経済課題等の多くの課題解決が必要とされています。しかし自然を保護するために開発をやめた場合経済が縮小し、貧困拡大という問題が起こります。その逆もしかりで、積極的な開発がもともとある地域資源を破壊することがあります。
複雑な現代社会では両方のバランスを取る、新たな課題解決(イノベーション)が求められています。このような複雑な課題は単独の力では解決が難しいため、包摂的な活動、SDGsでいえば目標17〝パートナーシップ〟が重要になります。
課題
近年地方都市では自然資源や伝統文化など、地域の大切なものが失われつつあります。その一因として大切なものが知られていない、または当たり前になり、地域内で関心が失われ守る努力が行われなくなることにあります。地域の誇れる資源や文化が失われた場合、地域の活力や魅力が損なわれ、人口減少(若者の流出)につながり、最終的には地域が持続できなくなることが起こり得ます。
ツアー開始前に
富山県黒部市の豊かな天然資源について説明します。
富山県内で黒部市は水が豊かな都市として有名です。その理由は3,000m級の立山連峰にあります。
立山連峰の山頂付近はよく雨が振り、11月から4月まで約6ケ月間に渡り雪が降ります。そして〝雪の大谷〟という約20mの雪の壁がつくられます。
春になると立山の雪解け水は、豊かな森林から栄養素(窒素やミネラル)を吸収し、黒部ダムを経由して急流の黒部川を流れ、あっという間に富山湾にとたどり着くのです。
本ツアーは黒部川を流れる水の物語を、中流の宇奈月からスタートして、平地、そして下流の海へと流れに沿って進めていきます。
黒部川の中流付近の宇奈月町からスタート
ツアーの最初に訪れたのは、宇奈月駅前にある黒部川電気記念館です。ここで宇奈月町を案内していただく立山黒部ジオガイドと合流します。
立山黒部ジオパーク協会
黒部川電気記念館は、主に黒部川の水力発電について見学します。なんと黒部川水系には、黒部ダムを入れて5つのダムと12の水力発電所があるのです。水力発電はかつて高度成長期の関西や北陸の産業発展に需要な役割を担っていました。
黒部峡谷ジオラマシアターは、約10分程度で黒部峡谷の歴史と自然を、ジオラマと映像を組み合わせて紹介しています。
これから黒部峡谷鉄道のトロッコ電車の旧軌道のやまびこ遊歩道を歩きます。
やまびこ遊歩道は黒部川の雄大な流れ、トロッコ電車が走る新山彦橋、かつてトロッコ電車が走行していたトンネルなど、次々と変わっていく景観をお楽しみただけます。
遊歩道に先にあるのは、黒部川水系ダムの一つ宇奈月ダムです。ダムの仕組みは高いところから水を落として水車を回し発電しています。
宇奈月ダムの展望所からは山がきれいに見られます。
重要点
黒部川水系で発電された電力は、黒部峡谷鉄道トロッコ電車の電力に使用されています。実はトロッコ電車はクリーンな自然エネルギーで動く乗り物なのです。
昔はダム建設の資材運搬を目的に運行していたトロッコですが、その役目を終えた後地域の人々の要望もあり、黒部峡谷欅平までの観光交通の役割を担い、地域に経済的豊かさをもたらしています。このような地域の資源(黒部川)を活かして産業を活性化させることは、持続可能な地域づくりの一助となります。
新柳河原発電所(湖上に浮かぶ城をイメージ)
トロッコ電車終点欅平
トロッコ電車以外に黒部川の小水力発電を活用し、宇奈月温泉街で電気自動車を運行しています。
地域資源を活かす→産業での活用を考える
宇奈月町で自然資源(水)を活かした水力発電と観光活用例を見た後は、黒部市の平野部へと移動してYKKセンターパークへと向かいます。
YKKの歴史として、1954年に黒部市に大規模工場を建造しています。
この時代は高度成長期の始まりで全国的に電力が不足していました。そんな中で黒部市は豊富な黒部川水系の水力発電の電力のおかげで、生産コストを安くすることができたといいます。
そして当時多くの黒部市民がYKKで働き、地域に多くの雇用と豊かさを生み出していたのです。(現在も黒部工場には約6,000人が働いています。)
自然資源は使わなかければただ存在するだけになります。資源を活用し産業を発展させてこそ活きるのです。
YKKセンターパークでは、YKKの技術と歴史について学びます。
YKK黒部工場稼働後、黒部川の水を有効活用しものづくりを行います。水力発電の電力に始まり、ファスーの染色、部品の漂白・洗浄など様々な用途で水が活用されたのです。
(※現在では工場から発生する熱を、地下水の冷気によって冷やす、ecoな冷却方法として活用しています。)
そしてYKKは施設内にふるさとの森をつくる地域貢献事業を行っています。
ふるさとの森とはYKK創業者吉田忠雄氏が理想とする、森の中の工場を2034年までに実現できるようめざし、20種類2万本の苗木を2008~2012年にかけて計画的に植樹して整備し一般公開するものです。
黒部川周辺の自然が失われつつある中、ふるさとの森にはトンボ等の希少種が多く存在します。現在300種の生物が共存し、環境教育や調査の場として活用されおり、黒部平野に緑地を創出すること、また生物多様性を保全することを目的としているのです。
重要点
地域の自然資源は地域の人々が昔から守ってきたものです。そのため自然資源は地域に暮らすみんなのものであることを理解する必要があります。
そこで自然資源を活用する際に、地域内に豊かさを循環させることが重要になります。豊かさの分配方法として地域や自然資源への投資という方法があります。みんなのものである自然資源への投資は持続可能な地域づくりの一助になります。
そのため自然資源を使用する企業の多くが、地域イベントへの協賛や植林や環境整備活動に取り組んでいるのです。
実際にYKK創業者の吉田忠雄氏は『人類の繁栄は善の循環の中にある』と言っておられます。
企業の繁栄は社会の繁栄に繋がり、企業は単なる利潤の追求体にとどまらず、高い社会性を獲得する。この循環が自由社会とその中に働く人々の幸福をつくりあげるというのです。
この考えは〝SDGsの17番目の項目パートナーシップで解決しよう〟に繋がっています。
※善の循環については、YKKセンターパークに詳しい展示があります。ぜひ弊社テキストを合わせてご参照下さい。
地域資源を大切にし、その保全について考える
最後に訪れたのは黒部川の下流の漁師町生地です。
黒部川河口付近の生地には黒部川の地下水が湧き出、名水のまちになりました。
ここでは黒部宇奈月温泉観光局の名水ガイドによる案内で湧き水スポットを巡ります。
黒部・宇奈月温泉観光局
※下記写真は黒部宇奈月観光局のイメージ写真です。
湧き水スポットは地域の人々が飲水として汲み、また洗い物や果物を冷やすなど活用しています。また地域の人々により水場の掃除当番が決められるなど、保全に取り組んでいます。
生地の名水巡りを通して地域の人々に水が愛用され、また大切にされていることを実感できるのです。
黒部川河口ということもあり、川には多くの海の小魚が見られました。このあたりも豊かな水の影響があるのかもしれません。
地域資源の大切さを規範として伝える
地域を持続可能にするために、地域資源を保全しつつ、技術(産業)によって活用し、その効果を再大限に引き上げる必要があります。これが環境省が推奨する持続可能な地域社会の姿
〝地域循環共生圏〟で、パートナーシップの形の一つです。
そのために地域の大切なもの(資源や文化や産業)を地域のみんなが理解し、それを規範(法ではないが、誰もが正しいと認識しているもの)として次世代に伝えていく必要があります。
地域内で保全・技術・規範のバランスが取れているなら、簡単には地域の衰退は起こらないでしょう。
また、規範は地域で新たな取り組み(イノベーション)を行う際に、それが正しいか間違っているかを判断する基準になります。地域が共通の目的と価値観、そして判断基準を持つことで、地域で新たな取り組み(イノベーション)は推進されます。パートナーシップによるイノベーションは、持続可能な地域づくりに必要とされているのです。