ランドスケープという言葉があります。直訳すると造園らしいのですが、もう少し幅を広げて景観を構成する様々な要素(歴史・環境・資源等)として、最近はよく使われています。例えば商店街を花で彩って、花街道商店街にしているみたいな感じです。
今回ご紹介する滑川市瀬羽町は海の近くの静かな街です。この町の景観はランドスケープを活かしたまちづくりを行っていて、街の歴史的環境と人的資源によって生まれる佇まいの良い街並みは魅力的です。
そしてこの街の活動は、SDGsの「8.働きがいも経済成長もの雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する」
「11.住み続けられるまちづくりをの地域規模の開発計画の強化を通じて、経済、社会、環境面における都市部、都市周辺部及び農村部間の良好なつながりを支援する」に貢献していると考えられます。
瀬羽町は500mほどの通りの中に国の重要文化財の建物が4件もあります。歴史的にみると街自体が明治期には中新川地区で一番の賑わいを見せ、昭和に入ると「滑川銀座」と呼ばれる程だったそうです。
国の重要文化財に認定されているのが「旧宮崎酒造」、かつての商家だった「城戸家、有隣庵、菅田家住宅」の4件で、地域一体で街並み保全を行っています。
最近になって街の歴史的背景、歴史的環境(文化財・遺跡・町並み等)によって生まれる佇まいに惹かれて、若い人たちが新しいお店を数件OPENしていて、街の佇まいを壊さない程に街に賑わいをもたらしています。これは地域の人的資源であると考えられます。
瀬羽町にOPENした新しいお店(一部)
〈hammock cafe Amaca〉http://cafe-amaca.com/ SNSの発信だけで人気店となり、季節の食材を使ったパフェをハンモックにゆられながら食べる体験が若い人に人気です。
古民家をリノベーションした雰囲気のいい書店〈古本いるふ〉、美術館の様な古道具屋さんの〈スヰヘイ〉、重要文化財の宮崎酒造の2階で営業するカウンターから海が見えるお店〈アガーリcurry〉はココナッツチキンカレーが人気です。
この事例は地域を愛する人達の力が集まって地域を守っていくための環境づくりが、SDGsへの貢献にあてはまると思います。
地域の方が貴重な歴史的環境を守ることで街の佇まいを創り、その佇まいに惹かれた若い人たちが集まることで街に活力を生み出すという事になります。伝統を守りながら、若い人たちを積極的に受け入れて支援する、伝統と革新(イノベーション)をテーマにしたまちづくりではないかと思います。
SDGsの「働きがいも経済成長も」で言えば、若い人によって新しいお店が開かれることによる雇用創出、人が訪れることによる文化振興と産品販促に繋がっていきます。
「住み続けられるまちづくり」で言えば、地域の人たち自身にとって新しいお店がOPENすることは日々の活力につながりますし、食材など地元産のものを使うことで、農村部間との良好なつながりを支援することに繋がっていると思います。
※瀬羽町は滑川市観光協会に依頼することでガイド付きツアーを行うことができます。
https://namerikawa-kanko.jp/
瀬羽町の歴史は江戸時代に、加賀藩より北国街道の宿場町に指定されるところから始まります。当時は最大で251件の商売屋がありました。主に薬商や旅籠が盛んで、北国街道からこの宿場町を起点にして立山へ続く登拝道があり、「信仰(立山の山岳信仰)の道」と呼ばれていました。
明治期には木綿業が盛んになります。(新川木綿は信州や江戸で人気でした)そして銀行や中新川郡役所・警察などの行政中心地となっていきます。昭和になると、街は「滑川銀座」と呼ばれるようになり、その頃は映画館もあったそうです。
瀬羽町の横には「橋場」と呼ばれるかつての船着場がありました。橋場は複数の河川が合流する地点で、年貢米等の物資の集散地として利用されていました。そのため多くの旅籠が軒を並べ、人の往来が絶えなかったそうです。
賑わいを見せた街は時代の変化により一時廃れることになります。鉄道による交通網の変化、行政機関の移動など様々な要因と言われ、現在に至ります。
現在は街に、ランドスケープにより歴史的環境と人的資源という価値付けを行うことで、新たな価値を生み出しています。「普通にいいもの」を、地域の取り組みで「ここにしかないいいもの」にしていくことが、地方創生SDGs・持続可能な地域観光を実現できるのではないでしょうか。
参考資料:ランドスケープからの地域経営 地域と実践するSDGs~持続可能な地域資源減の活用~ 監修 中瀬 勲 企画 兵庫県立淡路景観園芸学校/兵庫県立大学大学院緑環境景観マネジメント研究科
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