SDGsの話がでると、範囲が広すぎて分からない、意識が高い世界の事を考えるグローバルな話というイメージで答えが返ってくることが多いです。
地域レベルでできるような事が少なく、寄付や海外支援のボランティア活動、エコ活動等をイメージしやすいようで、自分の仕事、住む地域、暮らし等とは直接的に関わりがない様に感じるようです。
そんなSDGsに気軽に取り組むための秘訣が、表題にある「グローバルに考えてローカルを見る」ということになります。
どういうことなのか、グローバル社会になる前の日本社会を振り返ってみたいと思います。
ものを大切にしよう
日本の社会では、昔から〝ものを大切にしよう〟と教えられてきました。私自身30年ほど前にもったいないお化けが出るというテレビのCMが流れていたのをよく覚えています。
当時なぜ大切にしなければならないのかということは、具体的に明示されていませんでしたが、おそらく神道に基づいた八百万の神様(あらゆる物に神様が宿る)という、日本の道徳的価値観に基づいているのだと思います。
しかしながら現代はグローバル社会となり、国際的な文化も多様で、子供たちに〝なぜ大切なのか〟理由を明確に伝えないと、理解してもらいにくくなってきているのではと感じます。
現代は〝物を大切に〟とは真逆の〝使い捨て〟の時代になっています。〝大量生産・大量消費・大量廃棄〟による、衣類やプラスチックゴミの増加と焼却でCO2は増加し、さらに安価な使い捨て製品が当たり前になることで、(主に中小企業の)産業破壊・発展途上国の貧困などの問題が起こっています。
しかしこれらの問題は、消費者側には見えにくく、〝安くなる事はいい事〟という風潮になってしまっているように感じられます。
エシカルな行動とは
少し話はそれますが、SDGsには、エシカル消費・エシカル投資という考え方があります。直訳すると、論理的・道徳的を形容する言葉です。
エシカル消費についてSDGs的にいうと、世の中に与える影響を考えて、そもそもの消費を減らす行動(リデュース)を行うことになります。
簡単に言うと、食べられる分だけ注文する、計画的に買い物する、などがあると思います。
エシカル投資については、日本では投資による資金集め自体があまり浸透していませんが、ヨーロッパ諸国では、世の中にとって良い活動を行う企業に積極的に投資し、そうではない企業には投資しないという流れが起こりつつあります。
エシカル投資の影響で、グローバル企業のSDGs活動は盛んになり、発展していくと考えられます。
しかし、主に個人が対象のエシカル消費については、個人の道徳的価値観に頼ることになり、〝効率が悪い、利便性がない〟ことに対して、なかなか理解を得られにくいため、浸透は今一つと言えます。このようなエシカル消費を理解しやすくすることは、SDGsの役割と言えます。
グローバルに考えてローカルに活動する
エシカル消費というワードを踏まえて、話を戻してなぜ〝物を大切にしなければならない〟のかを、SDGs(持続可能な社会)の観点で考えてみましょう。
現状生産するには、資源(プラスチックであれば石油)とエネルギー(熱エネルギー等)が必要で、CO2を排出して地球温暖化につながっていることが基本となっています。
世界はつながっているので、気候問題の影響は一国では収まりません。
グローバルな世界の環境問題として考えると、やはり物は大切に、長く使った方が、〝地球温暖化対策〟として良いと言えます。
そう考えると、気に入った物を長く使う〝愛着〟の精神を大切にし、またフェアトレード(搾取のない公正な取引)等のストーリーがあって、思い入れを持てる商品を使う事などは、個人がだれでもできるエシカル消費になります。
〝世界の環境問題の為、身近な物を大切にする〟これがグロ-バルに考えて、ローカルを見て活動する、誰でもできるSDGsの貢献ということです。
余談になりますが、そうなると一部の産業(使い捨て商品が主力の企業)は衰退していく可能性はあります。そのため、中小企業であっても、グローバルに考えてローカル(自分たちの商圏)にビジネスを考えていく必要があります。
また、車など一部の工業製品については、古い製品よりも、最新の製品の方が長い目で見ると環境に良い場合があります。(エコカー・省電力など)
そこで近年増えてきた〝シェアリングエコノミー〟(IT等を介して、個人と個人が物を共有するサービス)の場合、〝製品〟自体はサービスの事業者が所有している事から、常に最新の商品に更新することができます。
つまり劣化商品を長く使い続ける事で起こる、環境悪化を防ぐことができるわけです。
さらに古くなった製品を回収し、リユース(再利用)やリサイクル(再資源化)を行う事で、CO2削減に貢献できるのです。
このあたりは、産業の成長を17の目標の一つ掲げるSDGsの難しいところで、環境に配慮しながらも持続可能な経済成長を目指す必要があり、そのためにイノベーション(今までにないやり方、革新的なやり方)に取り組むことが重要視されています。
ちなみに〝ローカル〟という言葉には、地域と自分の身の回りという二つの意味を含んでいます。
例えばローカルな活動には、地元の店の商品を購入する事も含まれます。これによって自分たちの住む地域の中で、お金の循環が生まれ、地域が豊かになることにつながります。(地域循環型経済)
ネットショッピング等のグローバルビジネスは、現代においてその利便性から、必要不可欠な存在ですが、それはそれとして、地域のことを考えて必要に応じて使い分けることは、持続的な地域づくりのための、エシカル消費と考えられるのではないでしょうか。
富山県での事例紹介 水橋と立山町
今回紹介したいのが、富山市の水橋の水橋漁民合同組合」取り組む活動と、立山町の越中陶の里陶農館の活動です。
水橋漁民合同組合は、富山市水橋の漁師の有志を中心に活動しておられます。水橋の地域活性を目的に、富山の海をPRし、感謝祭や地元学校給食に地元のお魚を提供するなど、多様な活動をしておられます。
それらの組合活動の中で、地域と協働で行っている〝地引網体験〟が、エシカル消費を考える、〝きっかけづくり〟として、SDGsに貢献していると考え、今回ご紹介いたします。
富山湾は岸近くから、急に深くなる特殊な地形をしている〝日本三大深湾〟と言われています。
そんな富山湾の魚が美味しい理由は、〝富山湾の水はその水深の深さにより、一年を通じて水温が低く安定していて、有機物や細菌類が少なく清浄であること、さらに北アルプスの豊かな森林から得られる無機栄養塩類(植物の栄養となる、窒素・リン・ケイ素)が急流の川から流れ込み、その豊富な栄養塩類のおかげで、海洋生物の餌となる植物プランクトンが豊富に発生し、多様な海洋生物を育んでくれる〟ということになります。
(実際には海流など、もっと複雑な要素があるのですが。)
その恵まれた環境のおかげで、漁師さんたちの地引網体験は成立しています。
地引網体験はどのようにSDGsに貢献しているのでしょうか。
森の豊かさと海の豊かさが、富山の魚が美味しい秘訣であるなら、それを保全していかなければなりません。
環境破壊によって森の豊かさが失われると、水質汚染や栄養塩類が失われるます。
世界の人口増加による漁獲量の増加が続くと、富山の特産品の寒ブリ、シロエビ、ホタルイカなども数が減少し、食卓から消える可能性があります。
これらの問題の多くは漁業者等、または国レベルで解決する問題と考えがちですが、一市民としても考えられる問題は存在します。
私たちの生活に身近に存在しているプラスチックです。
プラスチックを原料とするものに、レジ袋やペットボトルがあります。それらはきちんと処理されずに、風に乗って川を経由し、海へ流れ込むものがあります。
また、台風や大雨の際には、川の流れを通じて大量のごみが海に流れ込みます。海は世界中で繋がっていて、他国のごみが日本の海岸に大量に流れ着くことがあります。
また日本は多くの廃プラスチックを他国に輸出し、リサイクルしてもらっている現状もあることから、プラスチックゴミはグローバルな問題と言えます。
そのような海洋プラスチックゴミは、海洋生物が餌と間違えて誤飲したり、体を傷つけるなど、約700種類の生物に影響を与えています。
富山県の魚津水族館では、〝アカナマダ〟という魚の胃から、多くのプラスチックゴミがでてきたという事例を展示コーナーで紹介しています。
2050年頃にはプラスチックの生産量はさらに増えて、現在の約4倍となり、海洋プラスチックのごみの〝重量〟が、海にいる魚の〝重量〟を上回ると言われています。
さらに悪い影響として、海に流れ着いたプラスチックゴミは、波の影響を受けて破砕されることで細かい粒子、マイクロプラスチックになって生物に吸収されます。
そのマイクロプラスチックによる環境や生物への影響は、現在のところ解明されておらず、大きな懸念となっています。
プラスチックは便利な生活の象徴です。しかしその問題を多くの人があまり意識していないということがさらに問題だと思います。そのような問題について一人一人の意識を変えることが必要となります。
意識を変えるための分かりやすい手段が、水橋の地引網体験です。
本ツアー前の解説によって、現在のグローバルな海洋ゴミ問題について知った後、実際に多様な魚が獲れる瞬間を目にし、美味しい富山の魚のふるまい鍋を食すことなどで、富山の海について良いところ、良くないところをリアルに実感していただくことができます。
グローバルに海洋ゴミ問題について考え、地元の海の豊かさの保全を考えること、そして次の世代に豊かな海を残し地域の持続可能に貢献すること、これらはエシカルな行動と言えると思います。
もう一つの活動は、立山町の「越中陶の里陶農館」です。
立山町でとれる土は、昔から焼き物に向いている良質な土であったといいます。古く安土・桃山時代時代に、この地域の焼き物の歴史が始まり、江戸時代に加賀藩主前田利長が尾張国瀬戸から陶工を招いて、「越中瀬戸焼」が生まれ、藩の御用窯として越中一の産地となりました。
明治から大正時代にかけ一時衰退しますが、現在4軒の窯元が人の暮らしを豊かにする日常使いのうつわや茶道具を中心に作陶を行っています。
大量生産・消費・廃棄の問題
このような地域に伝わる伝統工芸・芸術・文化は、人口減少による後継者不足と、大量生産・消費・廃棄の問題により、存続の危機にあると言えます。
本来、地域の伝統工芸・芸術・文化は、地域に住む人の生活を豊かにし、地域の活力を生むことに貢献しています。
活力のなくなった地域は、魅力のない地域となり、地域に対する誇りも失うことになります。そして地域は廃れ、最終的に住み続ける人がいなくなる恐れがあるのです。
もし他地域でグローバルに大量生産された安価で便利な製品に、みんなが飛びついた場合、地域の産業は失われてしまうのです。
伝統文化の伝統産業化
それらを防ぐために、工芸・芸術・文化を〝産業化〟し、伝統産業として残していくことが重要になります。
(伝統産業とは、古くから受け継がれてきた技術を用いて、デザイン性・機能性に優れた生活製品として作られ、世の中に数多く流通させている、伝統的なものづくり産業のことを指します。)
そこで、物の〝付加価値〟について学ぶ機会が重要になる訳です。例えば手作り体験によって、自身が作った作品に〝愛着〟を感じる事、人によって異なる価値感が付加価値であると言えます。
立山町陶農館での、窯元見学や陶芸体験を通して、伝統文化に対する〝愛着〟という付加価値を得ることができるのです。
つまり陶農館は、〝越中瀬戸焼の産業化〟と地域への〝愛着の精神の醸造〟という、二つの役割を果たしていることになるのです。
〝グローバルに大量生産された安価で便利なもの〟に頼るばかりでなく、〝地域の文化的豊かさと伝統産業を大切にする〟エシカルな消費行動につながることに期待しています。
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